2002年1月10日

現在の "Queenslander"

戦後は、新しい時代の中で 'Queenslander' が次第にその本来のアイデンティティーを失って行った時代と言っていいかも知れない。

元来、典型的な 'Queenslander' の設計においては居間、寝室、などの居室を重視した間取り構成と装飾に重点が置かれ、キッチン、浴室などは裏側のベランダや床下部分に追いやられた補助的空間として扱われてきた。
しかし、ガスや水道の普及、女性の地位の向上などにより、利便性と働きやすさなどが求められた結果、それらはようやく2階の住宅内部に取り込まれ、より広いスペースを占めるようになる。
家族構成員それぞれのプライバシーの保護が要求されて部屋数も増え、間仕切り壁は従来の1枚壁から厚い壁に取替えられた。
これらの結果、家全体の間取り構成に変化が生じ、通風のため設けられた中央の廊下が消えた。
古きよき時代へのノスタルジアもあって、多くの人々は現在の家を改造をする道を選択しようと試みたが、ベランダが壁で覆われ、床下にブロックが積まれて新しい部屋に変わった。
木材で造られた構造や外壁は、湿潤な気候の中では傷みも早く、防腐剤の塗布、ペンキの塗り替えなど日常のこまめな維持管理が欠かせない。新建材の登場により、例えば、木の窓はアルミ・サッシュの窓に、木材の支柱は鉄骨の支柱に取り替えられた。
設計上、技術上の限界に直面して、あるいは維持管理コストの負担に耐え兼ねて、過去の様式を捨てまったく新しい建築資材と建築様式を取り入れる人も多くなり、1930年代以前に建てられた由緒ある 'Queenslander' は取り壊され、次第にその数を減らしていった。


外壁の修理、塗り替え工事の現場
板壁の維持管理は結構大変な作業。

保存意識の高まり

1970年代以降、歴史的・文化的遺産としての 'Queenslander' への評価が高まり、保存と回復への動きが強まっている。
その最も大きなインセンティブとなっているのは、不動産市場におけるプレミアム価値。建築様式が正しく伝承され、念入りに維持管理された住宅は、中古住宅市場でより高い価格で評価されるのだ。
また最近では、中級以下の小さな住宅を求める若い人達の間でも、古い時代への憧れから 'Queenslander' を求める人が増えているらしい。
新聞の広告欄などには、"Custom built Quennslander" "Well renovated Queenlander" などの表示が結構目につく。州政府や市当局もこれらの先人の遺産を保存する活動を奨励しており、適切な修復や維持管理の方法についてアドバイスを行なっている。

家が動く?
比較的小型の 'Queenslander' の場合、高床の支柱の上に上部の住宅がボルトや釘で簡単に止められているだけのケースが多い。
現実に古い住宅の床下を覗いてみると、支柱と上部の梁の間に木片を適当に挟んで高さの調節をしている。地震の多い日本では考えられないことだ。
従って、支柱をより高くして見晴らしをよくしたり、下部に新しい部屋を造ったりする時は、ジャッキで上部を持ち上げ支柱だけを取り替えるという荒業を使うことがあるそうだ。
それどころか、支柱を切り離した上部だけを(家の規模によっては、いくつかに分割して)トレーラーで別の敷地に運んで新しい支柱の上に乗せれば、「はい、でき上がり」。新築の場合よりもコストが割安になるだけでなく、工期も短くてすむ。
ケアンズで聞いた話では、1年に何件かは家の動いている風景を見られるということだった。
なんとも豪快な話ではないか。

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